最高裁判所第三小法廷 平成6年(あ)544号 決定 1997年10月28日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人環直彌外五名の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例は事案を異にし本件に適切でなく、その余は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
なお、所論にかんがみ、商法上の特別背任罪の成否の点について職権により判断する。原判決の認定によれば、株式会社三越の代表取締役Oと、その愛人であり、株式会社アクセサリーたけひさの代表取締役であるとともに、オリエント交易株式会社の実質的経営者であった被告人は、共謀の上、三越が海外で買い付け、オリエント交易を介して輸入した商品について、更にアクセサリーたけひさを経由して仕入れる合理的理由がないのに、これを殊更にオリエント交易からアクセサリーたけひさに転売させた上で同社から三越が仕入れることにより、アクセサリーたけひさに差益を取得させたというのである。Oは、百貨店の代表取締役として、商品の仕入れに当たり、仕入原価をできる限り廉価にするなど仕入れに伴う無用な支出を避けるべき任務を負っていたものと解されるところ、前記事実によれば、アクセサリーたけひさの利益を図る目的をもって、右任務に背いて同社をオリエント交易と三越との間に介在させて差益を取得させ、それと同額の損害を三越に与えたことが明らかであるから、Oには商法上の特別背任罪が成立し、Oと共謀してその犯罪行為に加功した被告人は同罪の共同正犯としての刑責を免れない。したがって、これと同旨の原判断は、正当である。
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 山口繁 裁判官 元原利文)